200000hit記念連載小説

ずっと、ずっと...〜番外編〜       <和兄と彼女2>

〜愛にはまだ遠い...〜

「今日から2週間の間皆さんと一緒に勉強される教育実習の先生方を紹介します。W大学教育学科の三井 勇太郎先生、S大学国文科の南野 喜和子先生、F大学英文科の野添 千賀先生、K大学社会学科の小畠 和明先生。皆さんここの卒業生の方ばかりです。しっかりと...」
(か、和せんせがスーツ着てる..)
6月の終わりに近い月曜日の朝礼。壇上には今まで見たこともないほど緊張してるスーツを着込んだ和せんせの姿があった。
高校に入学してからすでに1学期も終わろうとしている。
あたしは毎日を忙しく過ごしていた。まっていたって、今までのように毎週決まった日にせんせに会えなくなってしまったから...そのぽっかりと空いてしまった時間を埋めるように瑞希ちゃんと一緒に家庭科クラブに入って、少しでも気を紛らわせてるの。
和せんせは時間が空いたときにひょこっとやってきて勉強の心配もしてくれるんだけど、そんなにらぶらぶの時間を過ごしてはくれないの。ちょっとさみしい...だって高校生になったらもっとちゃんと相手してもらえると思ってた。だけどいつまでたってもあたしは勉強を教えてる女の子扱いで...だからせんせが来た時は勉強どう?から始まって、リビングですこし見てもらって、夕飯を一緒に作ったり、あたしの作ったのを食べたりしてた。帰り際にあたしがすりすり寄って行くと軽く抱きしめられたり、おでこにちゅってされたり...あれ?これって以前と変わらないような...
和せんせは毎回キスしない。瑞希ちゃんのお姉ちゃんが、一回えっちしたら毎回えっちだよって言ってたけど、せんせは絶対にそんなことないね。うん、それは断言できる。それは誕生日まで置いておくとして、もうちょっと何とかならないかなぁ?
それでも土日のどっちか和せんせとデートできるようになったんだよ。うちの中以外であったことなかったからすごく新鮮だったよ。映画とかは趣味合わないし、ショッピングもどっちも好きじゃないから、おいしいお店に連れて行ってもらったり、テーマパークにも一回連れて行ってもらった。せんせは乗り物あんまり好きじゃないみたいなのにかなり無理して付き合ったくれたみたい。あたし家族ともこうやって出かけたことなかったからすごく楽しかったなぁ。これってデートだよね?その帰りだけはちゃんと大人のキスつきなんだ。せんせ決めてるみたい...外でデートしたときだけキスって...なんでかな??
4月の頭にママに挨拶したときにママは言った。
『小畠先生を信用してます。先生には感謝してもし足りないぐらいです。この子の父親からも話は聞いてます。きっとあたしなんかより真名海を大事にしてくださってるはずですわ。だからこそ、勝手な言い分ですが、責任の取れる範疇でお願いします。わかってくださいね、先生。』
そう言われたせんせいは結構厳しい顔して返事を返していた。
けれどもまともに会えてたのも最初のうちだけで、5月くらいからだんだんと逢えなくなって、携帯のメールと夜に電話で話すだけになってしまった。何度もごめんよって言ってくれるせんせの声は優しくて、ついいいよって言ってしまったけど、せんせは知ってるよね?あたしがどんなに寂しがり屋で、構ってもらえなかったら弱ってしまうほどダメな子だって...

『ごめん、しばらくは逢わないほうがいいと思うんだ。』
そう電話で言われたときはもう捨てられると思い込んでしまったくらいショックだった。嗚咽伝えるあたしの携帯からせんせの声が響いてきた。
『真名海、誤解するなよ。6月の終わりから教育実習に行くのが、お前のいる高校に決まったんだ。なのにそこの生徒の真名海とうろうろしてたらまずいだろ?だから...』
一生懸命説明する和せんせの言葉をよそに泣き崩れるあたしのためにせんせは夜中に車であたしんちまで来た。
「やだよぉ...逢えないなんて、やだぁ...うっ、えっ...」
「真名海、泣き止んでくれよ、俺教師になりたいんだ。そのためにも母校のほうが何かと融通がきくだろ。だけど教育実習中は真名海と付き合ってるって正々堂々とは言えないんだ。わかってくれるか?」
あたしは和せんせの膝の上、丸ごと抱えられて背中や頭を優しく撫ぜられて、ようやく落ち着きを取り戻しつつあった。
「ふぇっ、でも、同じ学校に、えぐっ、瑞希ちゃんとか園崎くんがいるよ?」
「あぁ、そっか従兄弟ってことにしてたんだよな...ま、余計なこというなって言っといてな?」
「わかった...ぐすっ、二人今付き合ってるから、瑞希ちゃんに、お願いしておく。」
子供みたいに甘えてせんせの胸にもたれかかるあたしの頭をそっと撫ぜてくれる。やっぱりこんなときは子供扱いなんだなぁ。
「申請しても他所に回されることだってあるから、決まるまで言えなかったんだ。ごめんな、その準備でなかなか逢えなかったし...」
ちゅって額にキス。1ヶ月ぶり、久々のキス、おでこだけど。
顔を上げてじっとせんせを見つめる。キスして欲しいのはそこじゃないよって、目で訴えてみる。1ヶ月ぶりの和せんせの体温、張りのある筋肉質のたくましい身体に抱きしめられて、もっと強く抱きしめられたくって、もっと近づきたくって、もと触れ合いたくって、もっと...キスして欲しい。
せんせは卒業祝いのキス以来、お家ではキスしてくれなくなったの。何でかなって思ったんだけど、お家じゃなかなかブレーキがかけにくいんだって。わたしは構わないのになぁ。外だと人目もあるから何とかなるって和せんせが自分で言った。
最近ママはパパと正式離婚してからふっきれたらしくめったに帰ってこなくなったから余計だろうな。一人暮らしみたいになりつつあるもん。ママはあたしが一人でも大丈夫だと思ってるのと、和せんせが付いてるから安心してるのかも知れない。ママは仕事で帰りが遅くなりすぎたときにお店に泊まったりしてる。たまに恋人と外泊もしてるみたいだけどあたしは気にしてないよ。だって好きな人と居たいって気持ち、パパのもママのもよくわかるもん。あたしだって、せんせとずっと一緒にいたい...身体ごと心も全部先生にあげたいって、いつでも待ってるのに...
1ヶ月も放って置かれたあたしはすっごく寂しかったんだからね、なのに電話で逢わないなんていうから...見られたらまずいからって逢うのまでやめちゃうの?そんなのひどいよ。学校で逢えたって、きっと話なんか出来ないよ。和せんせに触れることも出来ない...だったら今日みたいに逢いに来てくれてもいいじゃない?それって、やっぱりあたしの我侭なの?
「そんな目で見るなよ、ほんの1ヶ月だけだから、な?」
ほんの?この1ヶ月がどれだけ長く感じたか...せんせにはわかんないんだね。
「な、真名海...?」
何度も念を押すのがすっごく気に入らない。あたしは頬を膨らませて抗議する。
「やだよ、逢えないなんて...いっそのこと言っちゃおうかなぁ、せんせと付き合ってるって。」
「おい、真名海、頼むから!」
せんせの顔がぎゅって怒った顔に変わる。真剣な顔したら結構怖いんだよね。
「冗談だよ、言わないよ。でも...」
「な、じゃあどうしたら気が済むのかな?このお嬢さんは。」
「うー、キスして...」
また子ども扱い!もう本気で怒っちゃうよ?
「だってしばらくはまた逢えないんでしょ?学校で逢えたって何にも出来ないんでしょ?だったら、ここでキスしてっ!」
「ほんとにそうしたら我慢してくれるか?」
和せんせのおっきな手があたしの頬に触れる。あたしはふぅって息を吐いて膨らませた頬の力を抜いた。顎に手がかかってすこうしだけあたしの顔を持ち上げる。そうしないと和せんせはその大きな身体をもっと折り曲げないとあたしにキスできないから...
「んっ、ん...」
最初は触れるだけ、それから何度か離れては重なるせんせいのあったかい唇。あたしは唇をかすかに開いてせんせの来るのを待っていた。なのに...あれ?
「ここまでにしよう、な?」
ぐいっと引き離されるあたしの身体。和せんせが困った顔であたしを睨んでる。
「や、もっと、せんせ...」
あたしはせんせの首に腕を回して抱きつき、自分から唇を重ねた。ぎゅって思いっきり強くしがみついてせんせにキスする。悪戯心をだして舌先でせんせの唇をゆっくりなめてみた。
「うっ...ぷはっ!真名海、こら、そんな真似どこで覚えたんだ!?」
思いっきり引き剥がされた。もう、力ではかなわないんだから...
「だって...前にしたじゃない...
「あ、あれは...でもだめだ!女の子からそんなことしちゃ!」
せんせの顔真っ赤だね?怒ってないよね?
「こんなことする子嫌い?」
ちょっとすねた目でせんせの顔を見上げる。だってまだせんせの膝の上なんだもん。
「い、や...嫌いじゃない、よ...けどだな、だめだよ、真名海ぃ、おまえわざとやって俺のこといじめてるのか?」
「いじめてるわけじゃないよ。でももっとこうしていたいんだもん。」
せんせがため息つきながら、またそっとあたしを抱きしめた。
「俺もだよ...でも、もうしばらく我慢な。俺の実習が終わったらすぐに真名海の誕生日だから...」
「あ...」
そうだった。あたしの誕生日。その後ろに隠された意味を思い出してあたしは顔を赤らめてせんせの膝から降りる。
「わかった...我慢する。」
「ごめんな、真名海。」
そうして波乱含みの2週間は始まった。
「うーん、勇太郎先生のあの銀縁の眼鏡がすごくクールでいいんじゃない?」
「けどさあ、和明先生のあの体、すごいよね〜柔道着から覗く胸元の筋肉も程よくマッチョでね〜胸毛なんてないしさ!」
「うんうん、顔もよく見ると可愛い顔してるの〜お姫様抱っこされて見たいね〜」
クラスの女の子の話してる内容なんてそんなものよ。それにしても和せんせ人気ありすぎ!!お姫様抱っこはあたしだけなんだからね、何度もしてもらってるんだから...
「ほう、大モテだね、和せんせ。」
佐野 瑞希ちゃんは同じ高校、同じクラスなの。
「ね、内緒にしてよね。」
小声であたしが言うと、すっごくうれしそうな顔して頷く。
「わかってるよ〜あいつにも言わないようにちゃんと言ってるからね。」
「ありがとね...」
「真名海、せんせのこと好き?ただの家庭教師じゃないんでしょ?」
「ええっ!なによぉ、瑞希ちゃん!」
「だって前に海に行ったときの帰りにさ、景山が真名海のことあきらめるって言ったんだよ。あいつは真名海狙いで海行ったからね。」
「へ?そ、そうなの。」
「あんなに露骨だったのにわかんなかったの?まぁ、しかたないけどね。『あんなかっこいい従兄弟に勉強教えてもらってたら、俺のほうなんて向いてもらえそうにないって。』言って諦めてたよ。それに、怪我した真名海をお姫様抱っこした時のカレはかっこよかったものね〜軽々なんだもの。あそこにいた男子3人寄ったって出来っこないじゃん?そのあと茉莉とも言ってたんだよ、きっと真名海はせんせのこと好きなんだろうってね。それからせんせも、ね?」
「瑞希ぃ、お願い内緒にしてよ...でないと和せんせ教師になれなくなっちゃう。」
「わかってるってば、隼人(山崎くんの名前ね)にもかたーく口止めしといたから。しゃべったら別れてやるってね。」
「瑞希ちゃんったら...」
くすくすと二人秘密の話をしているあたしたちの向こう側でまたも女子の集団が騒ぎ始める。
「でもさ、あの4人同級生でしょ?さっきもさ、南野なんか和明先生にべったりくっついてんだよ、なんかむかついたなぁ。」
「それを言うなら野添も勇太郎先生に、なんかやだよね!」
それを聞いてた男子たちが反論を始める。
「何言ってんだよ、喜和子ちゃんにばっかり話しかけてるのは小畠の野郎だぜ?」
「違うわよ!南野が...」
なんだか聞きたくないような話が始まる。確かに今回一緒の先生はみんな同級生で、特に南野先生は柔道部のマネージャーをしていたひとだって、ちゃんと和せんせから聞いてる。でもさ、あたし、見てみてわかったんだ。南野先生きっと和せんせのこと好きだったんだ。そんな目してるの、わかるんだよそういうのって。同じ思いを持ってるからかな?
「暗いよ〜顔が。」
「瑞希ちゃん...」
部活の帰り道、瑞希ちゃんが声をかけてきた。あたしたちは自転車をついて歩いていた。隼人くんは今日は部活のあとのミーティングで遅くなるんだって。
「あたしさ、真名海のことずっと見てきて思ったんだけど、お父さんとお母さんがあんなふうになったのに真名海が立ち直れたのはあの人のおかげなんでしょ?」
瑞希ちゃんと茉莉ちゃんには両親が離婚したことだけは言ったけど、あたしがひどい生活送ってたの薄々気が付いてたのかな?瑞希ちゃんはよくあたしの顔色悪いのに気が付いて心配してくれてたもんね。あたしが周りの友達を拒絶してたときも、その後も以前と変わらず仲良くしてくれた。茉莉ちゃんとは学校違っちゃったけど、今でも仲良しなんだからね。こういうの本当の友達っていうんだろうね。でもあたしの気持ちだけは二人にも言ってなかった。それほどど大事な想いだったし、そこから壊れたり、なくなったりするのは耐えられなかったから。だって、和せんせには迷惑だろうし、家庭教師の立場から未成年の、それも13,4の子との仲を疑われたらせんせの立場もないだろうってね。これでも結構突っ走らずに考えてたんだよ。でも、もうばれちゃってるんだったら、ちゃんと言っておきたいって思った。
「あたしが今のあたしでいられるのは、和せんせがいてくれたからだよ。あたしがちゃんと生きてこれたのもこうやって高校生になれたのだって、毎日ご飯を食べることだって、両親のこと嫌いにならずに済んだのだって、みんな和せんせのおかげなの...恥ずかしくって言えなかったけど、パパが単身赴任で遠くに行く前からおかしかったの。ママは料理を作らなくって、家にも遅くならないと帰ってこなかった。それはママが味覚障害って病気で、食べ物の味がわからないから、ご飯作るのも嫌で、パパがこっちにいるときはまだご飯とか作ってくれてたんだけど、パパが遠くに行ってからは趣味だとかに走っちゃって、お友達とはじめたショップが忙しくなって、ますます帰ってこなくって...ご飯もお金を置いてくだけになっちゃったんだ。そんな時和せんせがうちに来たの。ママが頼んだ家庭教師だったんだけど、すっごくおせっかいでちゃんとご飯食べろって食事作ってくれたり、ママやパパの分心配してくれて、大事にしてくれて...あたしほんとにせんせがいなかったら...」
思わず涙が滲んでくる。泣くつもりなんてほんとになかったんだけど。
「わかってたよ。うううん、そんなに簡単じゃないのもわかってるけど、なんとなくそんな感じかなって...真名海いつ見ても顔色悪いし、いつもがりがりで成長しないし、給食はちゃんと食べてるみたいだけど、夕飯おかしだけとかいってたじゃない?ほんとにに大丈夫かなって、茉莉といっしょに心配してたんだよ。中学入ったぐらいから真名海、友達も全部避けだしたでしょ?いっつもイライラして、あたしにも『瑞希ちゃんみたいに幸せな子にはあたしの気持ちなんてわかりっこない!』って言ったことあったの、あれすっごくショックだった。でも真名海きっとすごく辛い思いしてるんだろうって、どうしたらいいだろうって、何も出来ずにいた。そしたら2学期になったらすっごく元気になってるんだもんな。寄り道誘ってもにっこり笑って『家庭教師の先生が来るの』『夕飯の買い物しなきゃ、今日は何作ろうかな?』なんてうれしそうなんだもん。よかったって思ってたんだよ。でもほんとはもっと早く真名海の口から悩んでること聞きたかった。」
「瑞希ちゃん...」
「これからは何でも相談しなよ?頼りにならないかも知れないけど、気は楽になるかもだよ。だって心配なんでしょ?和せんせのこと。」
「うん...ありがとうね、瑞希ちゃん...」
そのままうちまで来た瑞希ちゃんはあたしの作った晩御飯を食べて、いっぱいしゃべって帰っていった。だからその日はそんなに寂しくなかった。そのことをせんせにメールで報告した。
《よかったな、瑞希ちゃんはいい子だな。こっちも忙しいよ、ごめんな。カズ》
そう返信されてきた。
それからしばらくは、あたしの長いメールに一行の返事が返って来るだけの日が続いた。学校で顔あわせてもわざと知らん振りしたり...寂しかった。
それでも毎日クラス、ううん、学校中は若い教育実習の先生の噂話でもちきりだった。
「昨日の放課後さ、和明先生と、南野が抱き合ってたんだって!柔道部の連中が帰りに見たんだって!やっぱもう、決定的だよ...」
お昼の食堂でも4人仲良く並んで食べてるとこも報告されてくる。放課後も柔道部の練習を覗いたら指導してる和せんせと、その隣で微笑む南野先生の姿があった。タオルなんか渡したりして、柔道部のみんながはやし立ててた。せんせは必死でなんか怒鳴ってたけどあたしのいるところまでは聞こえない。
次の日二人は付き合ってることになってた。
あたしは昨日はじめてせんせにメールしなかった。電源を落として寝てしまった。だって、メールしたらきっといっぱい疑った言葉を送ってしまいそうだったし、南野先生の悪口もいっぱい書いてしまいそうだったから...

次の日のお昼休み。
「真名海、さっきそこで和せんせから伝言もらっちゃったよ?」
「え、瑞希ちゃんが?」
「真名海の携帯に連絡取れないんだけどって。今晩絶対に電話するから待ってろって。」
「ほ、ほんとに?」
「真名海、どうしたの?電池切れだったの?それとも...」
「うん、あたし昨日から携帯の電源入れてないの。だから...」
「なんでっだよ、すっごく心配されてんじゃない?南野先生のこと気にしてるの?あんなのはきっと噂だから!真名海、気にしちゃだめだよ。」
「うん...だけど、いっぱいいろんなこと考えちゃって、もしかしたらとか...今電話やメールしたらすっごく嫉妬深いこと言っちゃいそうで...」
「言ってもいいんじゃない?電源切って心配かけるぐらいだったら。」
そうなんだけど...聞くのが怖いんだもん。南野先生と付き合うことにしたなんていわれたら...
「電源入れてみなよ。」
二人で女子トイレに入って隠し持った携帯に電源を入れてみる。
メールが数通、不在者着信にメッセージ。
みんな和せんせからだった。
短いけど何度か連絡取ろうとしてくれたんだ。
《今日は遅くなるから電話できないから、ごめんな。》(20:14)
《今日は返事がないな?どうしたんだ、まだ帰ってないのか?》(21:31)
《どこかに行ってるのか?心配だから帰ったら連絡くれよな。》(21:55)
続いてメッセージが入っていた。
『どうしたんだ?まだ帰ってないのか?』(22:15)
『もしもし?俺だけど、いいから帰ったら電話してくれ。』(23:46)
『今お前のうちの前なんだけど、電気ついてるみたいだから安心した。じゃあ、おやすみ。』(00:34)
昨日うちの前まで来てくれたんだ...気が付かなかった。寄ってくれればよかったのに。けど聞こえちゃった...二回目のメッセージの後ろで『小畠くん』って女の人の声、高い南野先生の声...
「あたしと会う時間がなくても、南野先生とはずっと一緒に居るんだ...。」
ただ心配なだけなのかな?こんな家庭環境の子が家に帰ってなかったら...
「真名海、あたしには和せんせがすっごく心配してるように見えるよ。だめだよ、逃げたら。」
逃げる?あたし、逃げてたのかな...?